Story1-⑰:戦後の日本における「再埋め込み」

ウルリッヒ・ベックアンソニー・ギデンズが言うような「再埋め込み」のない状況は、現在の日本でも進んでいるのでしょうか。

戦後の日本を振り返ることにより、確認してみましょう。

 

戦後の日本で、まず「脱埋め込み」と「再埋め込み」の動きが顕著にあらわれたのは、高度経済成長を実現するために進められた工業社会化の過程においてでした。

当時、池田隼人内閣の「所得倍増計画」で代表される国家主導による工業開発計画が実施されました。

この計画は、「東洋の奇跡」と呼ばれるほどに成功を収め、日本は戦後からの復興を成しとげます。

その背景では、大規模な社会移動が発生しました。

農業従業者から賃金労働者への職業移動と、それにともなう都市部への人口移動です。

農業部門(第一次産業)からの「脱埋め込み」、そして工業部門(第二次産業)への「再埋め込み」を進めることにより、戦後の日本社会の改造計画は成功を収めました。

国民の所得の増加により、中流階級が増え、収入面で安定した生活を送れるようになりました。

また、「高度成長期」を通しての近代化によって生まれた制度や中間集団に人びとは組み込まれ、その一員として、社会との関係においても安定性を確保しました。

高度経済成長は、「脱埋め込み」から「再埋め込み」への動きが、見事に実現したことから成しとげられたと言えるのです。

これは、ベックとギデンズがいう「単純な近代化(第一の近代)」によって起きた社会変容に相当するものです。